「蒼玉海岸の海底で」
廃炉はいつもの様に蒼玉海岸に来ていた。···この場所は廃炉にとってお気に入りの場所となっていたのは言うまでもないが、先日出会った人魚姫の事も忘れることが出来ずにいたのである。
「ハァ〜···、この世にあれ程美しい女性が存在しているとは···。サスガは人魚族ッスね!」
廃炉はいつもの岩場に座り、あわよくばまた出て来てくれないかなぁとソワソワしながら海を見渡している。
だが今日の蒼玉海岸もいつもの如く穏やかに波音を立てながら、サファイアのように蒼く美しい水面を揺らしているだけだった。
「·····まぁ、そんなに世の中甘くは無いッスよね、分かってるッス···」
そう、ガッカリしながらも自分で自分を慰めていた、その時······
「チャポン····ッ」
「!!!!?」
一瞬、水音がした···ような気がした。廃炉は瞬時に反応し、周りを見渡すが、さっきと景色が変わった様子などはない。
「魚が跳ねたのか····?」
どう見てもいつもと変わらない様子の海をながめつつ、もしまた出会える可能性があるのならと少し沖の方まで行ってみる事にした。
足元の悪い岩場を器用に渡り歩いて沖の方までもう少しと言うその時だった。
廃炉は足元を何かにすくわれたのか体勢を崩し、そのまま海へと真っ逆さまに落ちてしまった。
「っ!!!!!」
「ガボガボガボッッッ」
身体能力の高い鬼族の廃炉であったが、何故か全く泳ぐ事が出来ない。
『な、何だっ、これは?!このワタシが何故かカナヅチに?!何故ーーー?!』
心の中で叫ぶ廃炉。
さすがにもう息も続きそうにない。このまま溺れて死んでしまってはカルラ様に顔向け出来んぞ!!と思ってはみるものの、どうすることも出来なかった。
そうしているうちにも意識も朦朧としてきた。サスガにもう無理かもしれない····と仕方なく死を覚悟したその時···
「ッッガハッッ!!!ハァハァッッッ!!」
急に息が出来たのである。
「い、一体何が·····」
もはや何が何だか訳がわからない。意識が朦朧としているせいもあるのか、目の前はボワッとして真っ白い····。
「·····あれ、ここは····やっぱり海の中で····もしかして海底···か?だとしたら何で息が···」
視界が少しづつ開けてきたのか、自分の足元を見た時に思わずそう呟いた。
そして、どうやら廃炉の背中付近に大きな岩があり、自分がその岩に寄りかかっていた事に今更気がついたのである。
「随分デカイ岩が海底にあるんだな··」
と、岩の方へと振り向いた時、その岩の上から痛いほどの視線を感じた廃炉は焦ったように上を見た。しかし仄暗いはずの海底が何故か白く眩い光で覆われいてよく見えない。
廃炉が目を凝らしてみると、その光の中には···まるでコチラを覗いているかのような誰かのシルエットが見えていた。
しかし、それが一体何者なのかまでは分からない。
眩い光に目を細くしながらも、廃炉はその何者かに声をかけることにした。
「あっ、あのっ!これはどういう状況なのですか···?!ここは海底ッスよね?息はできているようッスが···」
そう廃炉が声をかけると····
「······ええ、ここは蒼玉海岸の海底です。貴方はこの海の彷徨える亡霊達に目を付けられたのでしょう····。危ない所でしたね。」
廃炉はその美しい声にハッとした。
····聞き覚えがあったのだ。忘れもしない···あの日出会ったあの人魚姫の美しい声と全く同じだったのである。
廃炉はもはや何が何でも彼女の姿を視界に入れたくて仕方がない。
目をギッラギラに見開き、食い付くように身を乗り出した。
···そこにいたのは、この世のモノとは思えない程の美しい女性·····再び会いたいと願ってやまなかった彼女だったのだ···。
廃炉の目は完全に光に慣れていた。
そして、念願の彼女の表情もしっかりとマナコに焼き付ける。
まさに女神と言っても過言ではないくらいに慈悲深く優しい微笑みで自分を見つめる彼女に、今度こそ完全にノックアウトされる廃炉なのであった。
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鬼狩りの鬼が大好きで描かせていただいたファンアートになります。この絵を見て作者であるあんこさんhttps://novel.daysneo.com/author/ebisumaru78/が物語を書き下ろして下さいました(*´ω`*)♡
私一人で読ませていただくのは、勿体無いので許可を頂いてからここに掲載しています。いつもありがとうございます( ;∀;)✨✨