「小説『フラワーコード』」
小説『フラワーコード』著・晴れ時々猫さん
https://estar.jp/novels/25963386
P25~
第二章【約束】
https://estar.jp/novels/25963386/viewer?page=25
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「ちょっと待ってください! 俺、勿忘草の話なんかしてません! 名前の話だって」
「え? してない? あ……して、ない?」
「してないですよ!」
「だったら、シロツメクサはっ!?」
突然、俺よりもずっと身を乗り出して、詰め寄るように華頂さんはそう言った。その勢いは「勿忘草よりも大事なナニカ」だと俺に伝えているようで、一瞬、目の前に春の陽気な風景を見た気がした。でも、それがどこなのか、何なのかを記憶するほど鮮明な映像ではなくて、コンマ何秒かのその映像は一瞬で風化した。
「シロツメクサ……?」
そんなの……俺は知らない。
「いや……、そんな話こそ、してませんよ……」
俺のこの返答は、まるで彼に絶望を与えたようだった。
前のめりだった姿勢は椅子にすとんと戻され、混乱している自分の記憶を雑に引っ掻き集めて適当に片づけ始める。それが見るからに分かった。もう記憶を辿る作業を止めました、と顔に堂々と書いてある。分からないことを調べることを好まないのが誰の目にも分かる。
この人はいつだってそうだ。分からないことは、分からないままでも大丈夫と言う。だって、「キミが全部調べて教えてくれるでしょう」って、いつだってなんだってすべて俺任せにする。楽しそうに喋って、俺に甘えて、コロコロ笑う。その足で走り回って、俺を連れまわして、疲れたと言って動けない俺の足元で眠ってしまうんだ。キミは本当に俺が居ないと……。
え?
有り得ない思考と映像に驚き、俺はビックリして視線を彼から自分の足下へと落とした。しかし、その瞬間頭の上から何かかぼとっと落ちてきて、双眸に飛び込んできたのは、綺麗なシロツメクサの花冠だった。
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