「野次馬デビル」
9月の中旬、歯医者の定期検診に行ってきた。
前回の検診から約半年後で、ウチにお知らせのハガキが送られてきてね。
こういうのはマメに行くんだぜ、オレ。
定期検診なので、
虫歯ができてないかのチェックと歯の洗浄。
いつもの事さ。
案内されたイスに座り、二の腕にホクロがついたお姉さんに目隠しをされて洗浄。
こういう特徴を書いたりするのはキモいか?(笑)
いやあ、それでも何か目に入ってね。へへへ。
下の歯の洗浄が終わり、
「口をゆすいで下さい」
と目隠しを優しく外される。左側に用意された紙コップの水で口をゆすいでふと右側を見やる。
隣の人との間には壁、壁というか、仕切りかな。
上にちょっとしたモノが置けそうな。
そこにいたのさ。
コイツがね。
見たことのない生物だ。
いや、もちろん人形なんだけれども、
オレは即座に、
「野次馬デビルだ!」
と思った。
羽と、歯と、どこか好奇心を抱いたような瞳からね。
良く見るとバイキンに見えなくもない。
バイキンを模したマスコットなのかもな。
どことなく
「はっひっふっへっほ〜!」
の出来損ないに見えなくもない。
歯のバイキンのマスコットなのかもしれんが、生憎俺は虫歯じゃない。
コイツもオレが目隠しされている間、口の中を覗き込んでいたのかもな。
オレから目をそらしている。虫歯のないヤツには文字通り眼中にないのだろう。
だが、オレが見つめている事には気づいているんだろうな。目をそらしつつも笑っているからね。
若干のダミ声で
「見てないよ〜、知らないよ〜」
とか今にも言いそうだ。
なんだよ、
ちょっとカワイく見えてきたじゃないか。
窓の外は秋の空。駐車場からココへと自分が歩いて来た道。
紅葉の類は無かったが、関東は台風一過で忙しなかった日々が終わり、外は穏やかな午前の陽気に包まれている。
もしかしたら意志は持っていても、マスコットの体である以上、野次馬デビルは外に出たくても出れないのかもしれない。
外の世界を知らないのか?
いや、知っているのだろう。
まさか、この歯医者内で精製されたわけではあるまい。どこかの工場で産声をあげ、ここにやって来たのだ。
最近か、あるいはずっと前の事か。己の運命を呪い、1人悲しみに暮れた夜を幾度となく過ごしたのやもしれない。それでも絶望せずに、自分がやって来た道を部屋の窓から眺めながら、秋空に心を飛ばし、まだ見ぬ世界を想い描いている。その最中なのかもしれない。
そう考えると彼の顔が、
『ショーシャンクの空に』の
ティム・ロビンスのように
見えなくも、なくもなくもなくもない。
(by天気の子)
次の定期検診は4ヶ月後。
おい、野次馬デビル。人の言葉は知っているか?
治療中だが、いつでも話しかけてこい。
オレで良ければ、
お前の知らない世界を、教えてやるさ。
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