「野次馬デビル」

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  • 公開日 2020年09月03日

9月の中旬、歯医者の定期検診に行ってきた。

前回の検診から約半年後で、ウチにお知らせのハガキが送られてきてね。

こういうのはマメに行くんだぜ、オレ。

定期検診なので、
虫歯ができてないかのチェックと歯の洗浄。
いつもの事さ。

案内されたイスに座り、二の腕にホクロがついたお姉さんに目隠しをされて洗浄。
こういう特徴を書いたりするのはキモいか?(笑)
いやあ、それでも何か目に入ってね。へへへ。

下の歯の洗浄が終わり、
「口をゆすいで下さい」
と目隠しを優しく外される。左側に用意された紙コップの水で口をゆすいでふと右側を見やる。

隣の人との間には壁、壁というか、仕切りかな。

上にちょっとしたモノが置けそうな。

そこにいたのさ。
コイツがね。


見たことのない生物だ。
いや、もちろん人形なんだけれども、
オレは即座に、

「野次馬デビルだ!」
と思った。
羽と、歯と、どこか好奇心を抱いたような瞳からね。

良く見るとバイキンに見えなくもない。
バイキンを模したマスコットなのかもな。

どことなく
「はっひっふっへっほ〜!」
の出来損ないに見えなくもない。

歯のバイキンのマスコットなのかもしれんが、生憎俺は虫歯じゃない。
コイツもオレが目隠しされている間、口の中を覗き込んでいたのかもな。
オレから目をそらしている。虫歯のないヤツには文字通り眼中にないのだろう。

だが、オレが見つめている事には気づいているんだろうな。目をそらしつつも笑っているからね。
 
若干のダミ声で
「見てないよ〜、知らないよ〜」
とか今にも言いそうだ。
なんだよ、
ちょっとカワイく見えてきたじゃないか。

窓の外は秋の空。駐車場からココへと自分が歩いて来た道。
紅葉の類は無かったが、関東は台風一過で忙しなかった日々が終わり、外は穏やかな午前の陽気に包まれている。

もしかしたら意志は持っていても、マスコットの体である以上、野次馬デビルは外に出たくても出れないのかもしれない。

外の世界を知らないのか?
いや、知っているのだろう。
まさか、この歯医者内で精製されたわけではあるまい。どこかの工場で産声をあげ、ここにやって来たのだ。
最近か、あるいはずっと前の事か。己の運命を呪い、1人悲しみに暮れた夜を幾度となく過ごしたのやもしれない。それでも絶望せずに、自分がやって来た道を部屋の窓から眺めながら、秋空に心を飛ばし、まだ見ぬ世界を想い描いている。その最中なのかもしれない。

そう考えると彼の顔が、
『ショーシャンクの空に』の
ティム・ロビンスのように
見えなくも、なくもなくもなくもない。
(by天気の子)
次の定期検診は4ヶ月後。

おい、野次馬デビル。人の言葉は知っているか?

治療中だが、いつでも話しかけてこい。

オレで良ければ、
お前の知らない世界を、教えてやるさ。

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