「探偵と助手」

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  • 公開日 2021年03月31日

女子高生、神崎朱鷺(かんざき とき)は、半年前に父を事故で亡くしていた。
ある日、書斎で父の遺品を整理していると妙な手紙を見つける。
自分宛の未開封の手紙…中を見てみると父からのメッセージが書かれていた。
朱鷺、おまえを一人残してしまいすまない、一番苦しいときに側にいてあげられずすまない、朱鷺のことをずっと見守っている…思わぬ父からの言葉に堪えきれずその場でしゃくり上げる朱鷺。
真っ赤な目で手紙を読み進めると最後の一文に「もし、おまえの周りで不可解なことが起こったら、ここの事務所に頼ってくれ」と記されていた。

『柊探偵事務所』…馴染みのない名前を不可解に思いながらも、朱鷺はハッとする。
ここ数日、何者かに尾けられているような気配を感じていたのだ。気配を感じるたびに周囲を見渡すが、誰もいないーー。
亡き父がこの事を手紙の中で綴っていることに、嫌な胸騒ぎを覚えた。

朱鷺はすぐに柊探偵事務所への道のりを記録し、足早にその場所へ向かう。
徒歩20分で着いたその事務所は、事務所というより洋館というべき佇まいだった。
恐る恐る、門を叩く。が、一向に人が出てくる気配がない。
留守かと思ったが、中から水音がするし換気扇も回っている。8回ほど叩いたころに、ようやく扉が開く。
ドアの隙間から長身の青年がヌッと恨めしそうにこちらを見やった。

「……なんだよ子供か。」
「あの!父…に言われて来たんですけど」
「はあ?」
「父…神崎大からここの事務所に頼れって…」

父の名前を聞いた途端、青年の眉がぴくりとあがる。
「…大さんか…世話になったからなあ」
「!父を知ってるんですか!」
「ああ…昔ちょっとね」
「あの!私…最近誰かに尾けられて…わっ!!」
「まあ、とりあえず中に入んなよ。普段、ガキは中に入れないんだけど…大さんの子供ならしゃあないか」
一言二言多い人だ、と朱鷺は少しカチンとする。

玄関から応接間に案内され、一人がけのソファに座る。
周りは沢山の本棚に囲まれていて、ちょっとした映画のセットにでも使えそうだ。
「そこで掛けてな。紅茶淹れてくるから」

コポコポと心地よい音を耳にしながら、手持ち無沙汰な朱鷺は目の前のテーブルの上に散乱している書類を手に取る。
(…?なにこれ…雑誌の切り抜きかな…)
「…!?きゃあああ!?」
「あーあーもう何やってんだよ」
朱鷺が大量の書類をぶちまけたのを、青年はキッチンからしっかりと見てたらしく煩わしそうに睨む。
床に散乱した書類を足で器用に避けながら、テーブルにティーカップを置く。

「な…何なんですか、これ…!!し、死体の画像が…」
「ああ、未解決事件見るのが趣味なんだよ」
「はあ!?」
「僕が」
そんなんあんたぐらいしか見る人いないでしょ、と朱鷺が言葉に出す前に
青年がどっかりと向かいのソファに座り、形式上の自己紹介を口にする。

「えー、僕は柊克己(ひいらぎ かつみ)。ここの事務所の探偵であり所長」
「あ…はあ…」
「で?どんな事件なの?言っとくけど僕つまらない事件は扱わないから」

朱鷺はその尊大な態度を取る青年と、床に散らばったグロテスクな書類と、豪奢な屋敷と紅茶を見比べ、
あまりの混沌に目が眩みそうだったーーー。

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