NOVEL DAYS × tree 2000字文学賞 「転生小説」結果発表
NOVEL DAYS × tree
2000字文学賞「転生小説」
結果発表!!
受賞作
水叉 直
嫌な人だと思っていた人の本当の姿というのはよくある題材ですが、2000字という文字数で書くのはなかなか難しいと思います。
しっかり描写しないと、単なるステレオタイプのキャラクターを、都合のいいところだけ裏返したようにしかならないからです。
しかしこの作品は、主要登場人物をサラリーマンに落とし込むことによって、最小限の描写によって読み手の中の登場人物像をリアルなものとし、細部を読み手の想像によって補完させることに成功しています。
書くべきところを書き、省略すべきところを省略するというのは、短編を書く上ではとても大事なことです。
さらにこの作品では、意外な転生とその後の生活を簡潔に、かつ情感を忘れずに描き、最後にはしっかりと感動的なエンディングをも用意しています。
評者もサラリーマンだからかもしれませんが、思わずぐっときました。
見事な作品でした。
全体講評
今回もさまざまな発想の転生小説が集まりました。
転生というテーマにあたって、いわゆる異世界転生が多くなるかと予想していましたが、想像以上に様々なアプローチから「転生」を描いた作品が多く応募されていました。
今生への未練や執着などを生々しく描いた作品や、来世への希望に満ちた作品。
身近な動物に転生するものから、果ては道具や自然に転生することで意外性を狙った作品もあり、実にバリエーション豊かな転生小説をお寄せいただきました。
また、異世界を取り扱った作品も、2000字の制約内でいかに個性を出すかを強く意識した作品が多く、「NOVEL DAYSらしさ」が表れていたと思います。
読者の皆様も、この「転生」というジャンルの幅広さ、奥深さを体感いただき、好みの転生小説を見つけていただけましたら幸いです。
優秀作品
惜しくも受賞には至りませんでしたが、ぜひとも読んでほしい作品を紹介します。
戻りて幾十度 願いて星霜 宮杜有天
ある目的のために転生を繰り返すというのは、ベーシックな型のひとつですが、中でも本作品は、ラストの急展開にあっと驚かされました。
走狗遊ぶ 立花紫朗
家康が自分の末裔のペットとして転生し、不出来な末裔を穏やかな視点で見守るという、愉快な発想とほのぼのした雰囲気のあわせ技が楽しい作品でした。
白と黒のロンド 不二原 光菓
転生前と転生後の世界の両方にまたがる物語ですが、どちらもとても雰囲気があってよかったです。途中のヒロインのセリフもとても印象的でした。
夏の終わりに sarai9
転生先が変わり種というタイプの作品ですが、確率的な問題などあらゆることを根性でなんとかするような、ある種の思い切りが気持ちいいです。
佳作紹介
選考者が気になった作品をさらにいくつか紹介します。
インディゴ fabian
子供に対する想いが強く感じられる作品でした。また、大人ならではのずるさが微笑ましかったです。
あいり♡時限式 いそべ
タイトルの付け方が上手かったです。内容通りながら、ギャップがあり意外性を感じました。
長周期彗星と廻る二人 いそべ
星と恋の掛け合わせが上手く、大いにロマンチックな気分にしてくれる作品でした。
ハードボイルドな香り立ち、流れるようなテンポのよい文章に引き込まれました。
同名転生 渡辺鷹志
「天気」を使って現代日本と邪馬台国を繋ぐという発想が面白かったです。
前世の約束、来世の願い わらばんし
夫のやれやれ感が上手く出ていたのと、オチが秀逸でした。
ほのぼの短編~ハロリン=異世界転生相談所 happyume
異世界で敢えて普通の幸せを享受する点が良かったです。
自己転生を繰り返したら 花火ぴい
何度も何度も転生を繰り返して一つの目標に向かっていって……というその先のオチが実によかったです。
とあるエテ公 mokuyou
誰もが良く知る民話同士を転生で繋げている点が面白かったです。
生まれ変わるなら、あなたは何になりたい? 穴の開いたまるい食べ物
「私」の「あなた」への愛がひしひしと伝わってくる作品でした。
生前の恨みが姉妹間で延々とループしているストーリーに思わずゾッとしました。
虫が嗤う 床谷
医者は本当に狂っていたのか、それとも見抜いていたのか。良い意味で後味の悪さがよく出ている作品でした。
死神の厚意 西乃狐
どうなるのか先を予想させない構成と、登場人物に与えた役割のまっとうのさせ方がよかったです。
秘密のノート 絵平 手茉莉
ホラー的な雰囲気がとてもよく出ていました。個人的に「ナイフを注文しているわ……」のくだりが好きです。