講談社文芸ニュースサイト「tree」主催 2021年上半期 エッセイ&ノンフィクションコンテスト 結果発表

講談社文芸ニュースサイト「tree」主催

2021年上半期 エッセイ&ノンフィクションコンテスト

結果発表!!

 

受賞作

 

子宮なんかいらない

溝口智子

エッセイやノンフィクションは書き手独自の「視点」というフィルターを通して「現実」を扱うため、書き手自身が「どのように考えているのか、何を思っているのか」がダイレクトに伝わってきます。それ故に、紡がれる言葉には血が通い、より一層力を持つことになるのでしょう。

 

本作は、重い生理に悩まされ続けていた著者が、ある「選択」をしたことで直面することになった出来事を、克明に描き出しています。

静かな温度で正確に伝えられる事実。率直ながら感情のにじむ文章。

著者自身が下した選択の重さ、そして、「子供を産まないことと産めないことの間には大きな壁がある」という言葉がずしりと胸に響きます。

「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」とつけられた章題にも明確な意図が感じられ、著者が抱える怒り、主張、問題提起が力強く伝わってくる点で、エッセイとしてもノンフィクションとしても非常にレベルの高い、受賞作にふさわしい作品でした。

 

 

全体講評

NOVEL DAYS史上初、1000作を超える作品のご応募ありがとうございました!

また、選考のために発表を延期することになり、大変申し訳ございませんでした。

さて今回はエッセイ・ノンフィクションというテーマの性質上、作者の考えや日常の一コマ、体験など、作者の内面や人生の一端が垣間見える、十人十色という言葉が相応しい独自性の高い作品が数多く応募されておりました。

中には、コロナ禍に感じる不安を赤裸々に描いた作品も少なくありませんでした。しかし、どの作品も結びは前向きになれる言葉で締めくくられており、読んだ人に少しでも前向きになってほしいという思いが伝わってくる作品が多く、言葉の持つ力を強く感じられるコンテストでした。苦しい状況が未だ続き、孤独を強く感じる今だからこそ、一人じゃないと思わせてくれる、そんな作品を読んでいただきたいです。

 

 

優秀作品

惜しくも受賞には至りませんでしたが、ぜひとも読んでほしい作品を紹介します。

 

宙ぶらりんな気持ち mys-9274

漠然とした、言葉にするのが難しい気持ち。また、それが他人から理解されないという苦しみをうまくすくい上げていると感じました。これを読んで救われる方もいるのではないかと思います。

 

谷底から見上げた夜空はあまりにもロマンチックで 小川うさぎ

当たり前のことが当たり前でなくなり、様々なことを我慢し続けないといけなくなってから久しい中、コロナ禍の中で開催されたライブへの感動とアーティストへの愛、そして明日からも生きていこうと思える人生の糧が生まれる瞬間が誠実な言葉で綴られていて、強く胸をうたれました。

 

鈴のような tocotoco153

介護というのは想像以上に壮絶で辛い出来事だと思います。応募作には同じく介護をテーマに、そのシリアスな側面をリアルに描いていた作品が多かった中、本作は随所にユーモアが混ぜ込まれていて、あたたかく微笑ましいシーンが強く印象に残りました。

 

高いところから見えた世界 のなよ

コンプレックスに関する紆余曲折を、著者ならではの経験をもとに描いたノンフィクション。抱いてしまったのがたとえ悪い感情であっても、それを真っすぐな言葉で正直に描いているのが好印象でした。自分に真摯に丁寧に向き合ってこられたことがよく伝わってきました。

 

子ブタのワルツ yurika915

前情報なしに読んでいただきたいので内容は明かせませんが、当事者の経験を第三者視点で少し引いたところから描き、ユーモアも交える語りには力を感じましたし、家族の確かなつながりを感じさせる描写には胸をうたれました。

 

 

佳作紹介

選考者が気になった作品をさらにいくつか紹介します。

 

大人になった「のび太くん」へ 篠田 良

ADHDの当事者だからこそ綴ることのできる経験と、自己分析の深さ、思考の過程が印象に残りました。この作品を読んで救われる方もいるはずで、一読の価値があると感じました。

 

ひろいあつめて歩く ともみおり

大人になると「当たり前」が増えてしまい、小さな発見も喜びも忘れがちになってしまいますが、子供は全然違う目線で世界を見ています。短い文章ながら「気づき」が丁寧に描かれていました。

 

結婚に必要なのは童心らしい mino__28

フィクションと相性がよくない、超現実主義的な著者の思想と性格がありありと伝わってくる一篇でした。果たして童心を手に入れることができるのか。非常に気になるところです。

 

鬱鬱星のしあわせ発掘者 川勢 七輝

心から信じることができる人との交流、膨大な読書量とともに、自分と深く向き合ってきた著者の背景がとてもよく伝わってきました。コミュニケーションに対するコンプレックスに「開き直り」というサバイバル方法で挑んでいく姿に救われる方もいると思います。

 

限界です tkiyoto

Adoの「うっせぇわ」を端緒に、「ゆとり」や「さとり」世代に対してロスジェネ世代が感じる思い、考察、また自己をひるがえっての悲哀が率直にえがかれているのが印象的でした。

 

ノーマンステイズ 華月文海

ギャル語、「ぴえん」などキャッチ―な言葉や流行語も巧みに混ぜ込みつつ、全体的にとてもユーモアがあふれ、オチも秀逸で楽しく読ませていただきました。

 

我が家の腸活騒動 薊野シスル

夫の、目に刺激を感じる程のオナラというのは、大きなコンプレックスだったと思います。その改善の為に著者が実践してきた奮闘からは、夫への愛情が感じられましたし、それはそれとして、やっぱりどこか面白いと思ってしまうという開き直りが感じられるのも印象的でした。

 

あしたのジョーになりそこなった私の話 池乃大
現実と理想とギャップだけでなく、スポーツになっているとは言えボクシングとはどのような競技なのかを鮮明に教えてくれる作品でした。 


一人暮らしの部屋における、葬儀で使っためちゃデカ遺影の置き場所の正解を誰か教えて mkskrn2

思い描いていた最後とはかけ離れた命の終わりのままならなさと、突然送る側の中心に立たされた戸惑いがよく伝わってきます。タイトルもかなり目を引きました。


2021年3月31日 来し方行く末 平岡亜紗

ステイホームとキープディスタンス標準装備の生粋のインドアラーの、コロナ禍への率直な思いが綴られていて、大変興味深かったです。


お笑いDIY in JAPAN 樋口芽ぐむ

オリンピックの件もあり、結果的にかなり時事的な問題に切り込んでおり、変えていかなければならない点と変えてはいけないところを克明に描き出している、まさに今読むべきエッセイだと感じました。


グリーフケア 紫 梨絵

終末医療現場での患者や遺族へケアのエピソードを通して、コロナ禍でそのケアさえ難しくなった現状に対する現場の生の想いがありありと伝わってくる作品でした。


毛深い多様性、毛深い個性の違い 南田偵一

世にある脱毛器具の多さからもわかる通り、実は多数の男女が悩んでいる毛について真正面から向き合っている点や、毛深いという言葉がある出版社では差別用語リストに載っているというエピソードが校正に携わる方独自の視点で描かれている点が大変興味深かったです。


風俗話から思うことつれづれに rektlo

ちょっと下世話なエピソードから、ネット社会における言葉の使い方の変化や、現代への警鐘へ繋がっていくギャップが面白く、また言葉との向き合い方を今一度考えさせられる作品でした。

 

 

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